要約
長年にわたって政権を担ってきた自民党・公明党の連立政権は、2024年総選挙で衆議院における過半数を失い、日本の政治的未来は不確実な状況に置かれている。新首相の石破茂による解散総選挙で、288議席を保持していた連立政権は215議席まで減少し、過半数(233議席)を下回った。最大野党である立憲民主党は、98議席から148議席へと増加した。自民党の敗北の大きな要因は、「政治と金」スキャンダルであり、これが党への国民の信頼を損なわせた。歴史的な選挙結果にもかかわらず、投票率は戦後3番目に低く、推定53.84%となった。
この選挙結果は、石破氏のみならず、自民党の権力基盤をも危険にさらしている。石破氏が戦後最短の首相任期となるかどうかは、11月26日までに行われる首相指名プロセスにかかっている。それまでは、石破氏は国会議員の票を得るために奔走する必要があり、各政策分野では現状維持が続く可能性が高い。
企業は今後の政治的な動向に注目し、不確実性に備える必要がある。石破政権が続く場合と、新たな政権が誕生する場合の双方を想定した対応が求められている。仮に石破氏が2期目を務めるとしても、政治基盤の弱さから大胆な政策を推進することは難しく、岸田政権の政策を継承する形になるだろう。石破政権以外の方向性を見極めるためには、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会などの政党が持つ異なる政策について理解しておくことが重要である。特に経済、エネルギー・環境、外交・安全保障の分野での各党の政策が焦点となる。
選挙結果
自民党の選挙における敗北
自民党と公明党の連立政権は単独過半数を確保できなかった。自民党は56議席を失い、191議席となり、設立以来2番目に少ない議席数となる。公明党も32議席から24議席へと議席を減らした。過半数に届かないことで、与党は法案成立に苦慮し、他党との連携や交渉が必要となるだろう。憲法改正に必要な3分の2を得るのはさらに困難になる。自民党の影響力は低下し、政策立案プロセスがさらに複雑化することが予想される。 この敗北は、「政治と金」のスキャンダルや物価高騰による生活苦を背景とした有権者の不満を反映している。今回の結果は、2009年に自民党が一時政権を失った状況と類似している。その時も、リーダーシップに対する不満、世界的な金融危機、内部スキャンダル、そして立憲民主党の台頭が原因だった。
スキャンダルと自民党のガバナンス問題
自民党議員が政治献金を申告せず、パーティー券販売からの未報告収入を含む裏金事件は、党への信頼を著しく損なった。選挙前に党本部より2,000万円(約13万ドル)が、非公認の候補者が率いる党支部にまで送金された問題が、党の評判をさらに悪化させた。これらのスキャンダルは、自民党の選挙での低迷の要因となり、旧安倍派で強大な権力を持った「5人衆」の1人は落選に追い込まれた。国民が自民党、特にこれまで自民党を支配してきた既存勢力に対してNOを突きつけると共に、政治における透明性と説明責任を求める国民の声が強まっていることが浮き彫りになった。
女性議員は過去最高を記録
今回の総選挙では、過去最高となる73人の女性が衆議院議員に当選し、2021年の45人から28人増加した。女性議員は全体の15.7%を占め、前回選挙の9.7%から大きく増加した。自民党と立憲民主党は共に女性候補を増やし、立憲民主党が最も多い30人の女性当選者を出し、自民党は19人の当選者を輩出した。他の政党では、国民民主党が6人、日本維新の会、公明党、れいわ新選組がそれぞれ4人ずつ、共産党は3人の女性が当選した。
出典:NHK, https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/shugiin/
投票傾向の分析
地域別の投票傾向
2024年の選挙では、これまで自民党を支持してきた多くの農村部が立憲民主党に転じ、伝統的に保守的な地域でも変化が見られた。都市部の有権者は引き続き改革志向の政党を支持しており、大阪では日本維新の会が強固な地盤を維持し、東京では立憲民主党が存在感を強めた。農村と都市の分断は依然として存在するが、野党が農村部での支持を伸ばすことでその差は縮小している。2021年には、北海道、東北、九州などの地域が自民党を強く支持したが、都市部では野党、特に日本維新の会や立憲民主党が支持を集めた。
世代別の投票傾向
2024年の選挙では、若年層における自民党支持が大幅に低下した。10代の有権者のうち23.1%、20代では19.9%が自民党を支持しており、2021年と比べてそれぞれ14.6ポイント、18.1ポイント減少した。一方、国民民主党は10代の11.7%、20代の15.5%の支持を得て、支持を伸ばしている。70代以上の有権者では自民党が39.2%の支持を得たが、これも2021年に比べて3.2ポイント減少している。立憲民主党もこの年齢層で支持を伸ばし、26.2%の票を獲得した。
性別による投票傾向
性別による支持率を見ると、男性有権者の33.8%が自民党を支持し、立憲民主党は18.8%、日本維新の会と国民民主党がそれぞれ7.3%の支持を得ている。女性有権者では自民党が29.7%、立憲民主党が16.4%を占め、日本維新の会が7.5%、公明党が5.8%の支持を得ている。自民党は依然として男女ともに最も多くの支持を集めているが、特に若年層で野党が支持を拡大していることが明らかになっている。
石破政権と自民党の今後の展望
今回の選挙結果により、石破氏および自民党の政権基盤は危機に瀕している。憲法に基づき、総選挙後30日以内に特別国会が召集される。そのため、遅くとも11月26日までに国会が招集される。国会が招集されると、内閣は総辞職し、衆参両院の議員の中から新たな首相が選ばれる。石破氏が再任された場合、第2次石破政権が発足するが、そうでなければ、石破氏は戦後最短の首相任期となる。
立憲民主党 | 国民民主党 | 日本維新の会 | |
---|---|---|---|
ビジネス | 大企業への増税にやや賛成 | 大企業への増税に反対 | 大企業への増税に反対 |
エネルギー(原子力を含む) | 原発新増設認めず | 原発を支持 | 原発を支持 |
外交・安全保障 | 防衛費増額にやや賛成 | 防衛費増額にやや賛成 | 防衛費増額に賛成 |
自衛隊を含む憲法第9条改正についての見解 | 反対 | 中立 | 賛成 |
首相に指名されるには、候補者が総議員の過半数の支持を得る必要がある。過半数を得られない場合、上位2人の候補者による決選投票が行われる。今回の総選挙ではどの政党も過半数を得ていないため、自民党と立憲民主党がそれぞれ連携相手を確保する必要がある。
野党勢力の中では立憲民主党が優位に立っているが、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会の3党は重要な政策分野で立場が異なるため、連立を組むことは容易ではない。
選挙後の記者会見で、石破氏は、国民民主党との協力の可能性を示唆した。同党は働く世代の可処分所得の増加を強調し、選挙前の4倍の議席を獲得しており、キャスティングボードを握っている。
企業への政策的影響
選挙直後の市場の反応—パニックの兆候なし
10月28日の午前中、日経平均株価は与党の過半数割れを受けて下落で始まったが、円安と米国の半導体株の上昇を背景に買い戻しが進んだ。専門家の中には「市場は与党の過半数割れをすでに織り込んでいた」と指摘する声もある。
特別国会での首相指名までは現状維持
今回の総選挙で石破氏が政治基盤を強化できなかったことから、彼が日米地位協定の見直しやアジア版NATO構想など、自身の政策目標を追求する可能性は低い。むしろ石破氏は、自民党に対する国民の信頼を取り戻し、首相指名での多数派確保に向けた支持集めに奔走することになるだろう。したがって、首相指名が行われるまでは、さまざまな政策分野において現状が維持されると企業は想定しておくべきであろう。同時に、企業は展開する政治力学を注意深く監視し、不確実性を受け入れる必要がある。
政治的な不確実性とビジネスへの影響
企業は、石破政権の続行、または新たな政権成立のいずれに備える必要がある。特に、経済政策、エネルギー政策、外交・安全保障政策に関しては、政党間で大きな違いがあるため、注視が必要である。
経済
石破政権が続行した場合、石破氏は岸田氏の政策を引き継ぎ、賃金引き上げ、特に全国平均での最低賃金を5年以内に1,500円(約10ドル)にすることを目指す。
他の政権が誕生した場合、特に立憲民主党と国民民主党・日本維新の会の間で、経済政策に大きな違いが見られる。立憲民主党は大企業に対する増税をわずかに支持しているが、国民民主党と日本維新の会はこれに反対している。
エネルギー・環境
石破政権が続行した場合、石破氏は総裁選前には原子力エネルギーの廃止を主張していたが、選挙期間中にその立場を変更し、原子力は必要だと述べた。石破氏が政治基盤を強化できなかったため、この問題に関して党内や経済界の影響力に配慮し、原子力エネルギーを重視する可能性が高い。
他の政権が誕生した場合、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会のエネルギー政策は異なる。立憲民主党は、再生可能エネルギーを推進しており、2030年までに電力供給の50%を、2050年までに100%を再生可能エネルギーにすることを目指している。一方、日本維新の会は原子力発電を強く支持しており、国民民主党は再生可能エネルギーと原子力の両方を活用する立場を取っている。
外交・安全保障
石破政権が続行した場合でも、石破氏の政治基盤の弱さから、日米地位協定の見直しやアジア版NATO構想といった自身の政策目標を追求することは難しい。日本の外交・安全保障政策は、日米同盟に基づく現行の政策を踏襲する可能性が高いため、企業に対する影響は限定的である。
他の政権が誕生した場合、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会の外交・安全保障政策には違いがあるが、いずれの政党も日米同盟を中心に据えている。日本維新の会は防衛予算をGDPの2%に引き上げ、「積極防衛能力」の整備を掲げており、周辺国からの反発を招く可能性がある。国民民主党は、日本の防衛政策が米国に依存しすぎているとし、日米安全保障条約の将来について米国と協議すべきだと主張している。立憲民主党は、専守防衛政策を強調し、人権外交を進める方針である。また、米国との交渉において、日米地位協定の見直しや沖縄の米軍基地問題を再交渉することを目指している。国民民主党と立憲民主党にとっての課題は、地政学的な環境がますます厳しくなる中で、これらの政策目標を達成できるかどうかにある。とはいえ、各党とも理想と現実のバランスを取らざるを得なくなる可能性が高いため、現時点ではビジネス環境に大きな影響が出ることは考えにくい。
メディアの報道
さまざまなメディアが、今回の選挙結果がもたらす政治的な不安定な状況を報じている。
- 毎日新聞をはじめとするいくつかのメディアは、今回の2024年日本の選挙結果を、主流政党に対する有権者の不満が極右および極左運動の台頭を招いたヨーロッパの政治変動と比較している。
- ジャパンタイムズは、自民党が過半数を失ったことで、石破首相が第三党との連立を模索する可能性があり、それによって自民党の支配力が弱まり、ガバナンスが複雑化し、政治の不安定性が増すと予測している。
メディアは石破氏の発言や連立交渉について引き続き報じている。
- 読売新聞によると、石破氏は選挙での厳しい敗北を認めつつも、辞任する意向は示していない。代わりに、物価上昇などの緊急課題に対応するために、自民党主導の政権を維持し、国民民主党などの野党と協力する意思を示している。
- 一方、NHKは、公明党の石井啓一代表が議席を失ったことを受けた公明党内部での再編について報じている。立憲民主党などの野党は、与党連立に対抗するための連携を模索している。
メ外国メディアの見出しは、長年政権を握っていた自民党が過半数を失った重大さと、それに伴う政治的な不確実性を大きく報じている。
- 日本の長年政権を担ってきた政党が驚くべき選挙敗北で過半数を失う(The Washington Post)
- 「自民党は約70年間にわたり権力を強化してきたため、日本における政治的な不安定は珍しい」
- 解散総選挙後、日本の政治が久しぶりに混乱を経験 (BBC)
- 「通常、日本の選挙は安定していて退屈なものだが、今回の解散総選挙はそのどちらでもなかった」
- 長年政権を担ってきた与党が劇的な敗北を喫し、日本は政治的不確実性に突入(CNN)
- 「日曜日の選挙で、日本の有権者は長年政権を担ってきた与党に対して痛烈な反撃を与え、世界第4位の経済大国である日本は、珍しいほどの政治的不確実性に突入した」
- 日本の長期政権が過半数を失う (The New York Times)